役員報酬の決め方と税金の基礎


役員報酬の決め方と税金の基礎

会社を設立した時には当然、資金繰りを考えなければいけません。会社というものはお金が尽きてしまうと倒産してしまうので、決算申告のときになって予定以上の納税額になってしまったといったことにならないように計画的に会社を運営する必要があります。そして、実は、あなたが会社を設立した時に貰う「役員報酬」をいくらにするかによって、納税額や手元に残せるお金が驚くほど変わってくるのです。

 

そのため、どの社長も、まず最初に「自分の役員報酬額をいくらにするか?」で非常に頭を悩ませます。

 

そこで、当ページでは、「役員報酬とは何か?」という基本的な説明から、節税したり会社のキャッシュフローを最大化するためには、「どのように役員報酬を設定するべきか?」などの会社を経営する上で、必ず押さえておくべきノウハウをご紹介します。

 

目次

1.役員報酬(役員給与)とは〜経営者はどのように報酬を決めているのか?〜
2.役員報酬の決め方と注意点
2−1.役員報酬の額によって納税額はこんなに違う?!
2−2. 役員報酬の注意点①:会社の損益計画が狂うと納税額も大きく狂う!
2−2−1.計画なしに売上が伸びてしまうと納税額が跳ね上がる!?
2−2−2.毎期しっかりとした1年の損益計画を作ろう
2−3.役員報酬の注意点②:定期同額給与を理解していなければ痛い目に?!
2−3−1.定期同額給与とは?
2−3−2.定期同額給与で良くある失敗例
2−4.役員報酬の注意点③:使用人兼務役員にすると納税の選択肢が増える
2−5.役員報酬の注意点④:法人税や所得税だけでなく社会保険料額も絶対に把握しておこう
3.役員報酬の変更方法
3−1.役員報酬を減額する場合
3−2.役員報酬を増額する場合
3−3.役員報酬変更の議事録の書き方
3−4.役員報酬の変更に関する注意点:さかのぼっての減額や増額はできない
4.まとめ起業して成功するためには役員報酬には細心の注意を払おう

 

※注:当ページ内での計算方法は分かりやすくするために簡単化していますのでご了承ください。

1.役員報酬(役員給与)とは〜経営者はどのように報酬を決めているのか?〜

毎年、どこの役員がどれぐらい稼いでいるのかが話題になりますよね。実は、どこの会社も、役員報酬は税法と照らし合わせて、非常に綿密に決定されています。なぜなら、税法では役員報酬は原則経費にできない(=損金不算入)からです。そのため、節税が効く範囲(=損金算入)で決める必要があるのです。

 

そのことを知らずに役員報酬を高額にして、会社の利益を下げ、法人税の支払いを少なくしようとしても、後になって、「その役員報酬は経費として認められないので、法人税はこれだけ上がります。」と慌ててしまうことになります。そして、これから起業独立を目指している経営者予備軍の方や、新米の経営者は、この点を理解していなければ、会社の資金繰りがとても大変になってしまいます。

 

さて、現在、税務上、会社の経費(損金)として認められるものは以下の6つです。

 

  • 定期同額給与:毎月一定の時期に定額で支払われる報酬
  • 事前確定届出給与:事前に税務署に届出をして、その届出の内容通りに支給される報酬(賞与)
  • 利益連動給与:大会社で認められている利益に応じて支払われる報酬(出来高のようなもの)
  • 退職金:その名の通り
  • ストックオプション:現金の代わりに支給される自社株
  • 使用人部分の給与のうち相当なもの:「2−4.使用人兼務役員」の項にて後述

 

これに該当しないもの、例えば事前に届出をせずに支給した役員賞与などは経費(損金)になりません。このように、従業員に払う給与と比べて役員給与(報酬)には、税務上、様々な制限が課されています。そして、繰り返しになりますが、ほとんどの企業は税務上、経費(損金)として認められる範囲で役員の報酬を決めているのです。

 

それでは、次から、実際に、役員報酬を決める時に、どのような観点で決めているのかをご説明します。ここから、これから起業を考えている方や、起業して間もない方も、会社経営を効率的に行うために、とても大切な知識やノウハウとなりますので、しっかりと目を通しておくようにしましょう。

 

注:ちなみに、2006年の税制改正以降、それまでの役員報酬や役員賞与は、まとめて「役員給与」と呼ばれるようになっています。当ページでは、簡単化のため「役員報酬」という言葉をそのまま使っています。

 

2.役員報酬の決め方と注意点

通常、役員報酬は起業直後の会社にとっては最も大きな費用となります。そのため、役員報酬をいくらにするかによって、会社が払う税金(法人税)や社長であるあなた自身が個人として払う税金(所得税)が大きく変わります。例えば初年度の利益が2400万円の場合、役員報酬をいくらにするかだけで支払う税金の額が、約280万円ほども開きが出てきます。

 

これだけ違いが出てくるので、当然会社の資金繰りにも大きく影響してきます。この点に関して、更に詳しくお話します。

 

2−1.役員報酬の額によって納税額はこんなに違う?!

一般的な会社経営者は納税に関して以下のうちのどれかに分かれることでしょう。そして、どの考え方を重視するかは、あなたの会社経営の方針によって柔軟に考えておく必要があります。

 

  1. 会社ではなく、できるだけ個人にお金が残るようにしたい:
    例えば、一人会社で、近いうちに個人名義で住宅や車を買いたいと考えているが、その時にローン審査があるので個人所得を確保しておきたいという場合など。個人所得が増えれば増えるほど、社会保険の負担料が大幅に増えるので、一般的にはおすすめしません。(詳しくは後述)
    ※住宅は会社名義で買い社宅として住むという方法もあります。
  2. 会社の税引後利益がなるべく残るようにしたい:
    設備投資が必要で金融機関などからの融資を考えている場合など、会社の財務状況を良くするために、なるべく会社に利益が残るように役員報酬を設定したいという場合。
  3. 会社と個人の区別なく手元に残るキャッシュが最も多くなるような額にしたい:
    経営が安定しており、そのままの成長ペースを保ちキャッシュフローを豊富に保っておきたい場合など。ただし、役員自身のお金を会社の運営に使う場合は、会社と役員の間での金銭貸借となります。その時は、一人会社であっても、会社は役員に利子とともにお金を返済する必要があります。

 

それでは、年間の利益(税引前当期純利益)が800万円の会社を仮定して、役員報酬の額を、これらの状況にあてはめると、実際に納税額にどれぐらいの違いが出てくるか見ていきましょう。

 

①会社ではなく、できるだけ個人に利益が残るように設定したい場合の納税額は約126万円

この場合は、単純に、会社の利益を全額役員報酬にしています。計算式は下記のようになります。
(1)給与所得の計算
(a)給与収入             8,000,000円
(b)給与所得控除        △2,000,000円
(c)給与所得[(a)-(b)]    6,000,000円
(2)所得控除
上記の給与所得から基礎控除を引きます。
基礎控除          380,000円
※他に扶養親族がいれば扶養控除、社会保険料の支払があれば社会保険料控除等を引きます。
(3)課税所得(=給与所得-所得控除) ※所得税率を掛ける対象となる所得金額
6,000,000円-380,000円=5,620,000円
(最大で)→所得税率20%
(4)税額(=課税所得×税率)
(a)所得税 5,620,000円×税率20%-控除額427,500円=696,500円
(b)住民税 5,620,000円×税率10%(一律)=562,000円
(c)合計(a)696,500円+(b)562,000円=1,258,500円

 

②会社の税引後利益がなるべく残るようにしたい場合の納税額は184万円

資本金1億円以下の中小法人の法人税率は、利益8,000,000円までは15%、利益8,000,000円超は25.5%になります。
なお、法人税だけではなく、住民税、事業税も考慮した総合的な税率である実効税率では、利益8,000,000円の場合23%ですので、計算式は下記のようになります。
8,000,000円×0.23=1,840,000円

 

③会社と個人の区別なくキャッシュが最も多くなるように設定するには

個人と法人ではどちらが税金で有利かを検討する場合は、双方の税率を比較します。

会社の利益の金額により税率などが変わってくるため、個人と法人どちらがよいかバランスを見ながら決める必要があります。

さらに社会保険の金額も絡んでくるため、専用のシミュレーターを使って個別に判断することになります。

 

 

2−2. 役員報酬の注意点①:会社の損益計画が狂うと納税額も大きく狂う!

2−2−1.計画なしに売上が伸びてしまうと納税額が跳ね上がる!?

役員報酬を変えられるのは期首から3ヶ月の間だけです。そのため、その3ヶ月の間に、今期の利益を正確に見積もり、その見積もりを元に、最適な役員報酬の額を決めなければいけません。(※ここで決めた役員報酬額は原則1年間変更できません。)

 

その際に問題になるのは、会社の利益計画が大幅に狂ってしまうと、法人税の納税額が大きく跳ね上がる可能性があるということです。

もちろん売上が上がるのはいいことです。しかし、無計画に売上が伸びすぎてしまうと、納税額が大幅に増えてしまいます。もし、売上の一部が期末のギリギリになって上がったものなら、すぐに納税時期がやってきます。売上は上がっていても、その売上がまだ会社にキャッシュとして入っていない場合は、納税時までに急遽、資金を用意する必要が出てきてしまいます。

もし、万が一、納税時までに資金の用意が間に合わずに資金繰りがショートしてしまえば黒字倒産してしまう可能性さえあります。そのような状況を防ぐためには、期首にある程度しっかりとした1年の損益計画を立てて、その計画をもとに会社を運営することが必要です。

 

2−2−2.毎期しっかりとした1年の損益計画を作ろう

会社になると個人事業主やサラリーマンの頃よりも「計画」が重要になってきます。なぜなら、このように税金一つとっても、計画がによってこれだけ大きく左右されるからなんですね。もし、これから独立起業を考えているなら計画書の書き方などもしっかりと精通しておくことをおすすめします。

2−3.役員報酬の注意点②:定期同額給与を理解していなければ痛い目に?!

2−3−1.定期同額給与とは?

冒頭で役員に対する支払いは原則経費(損金)として認められないというお話をしました。しかし例外があり、毎月同じ時期に、同じ額が支払われるなら、その役員報酬は会社の経費として認められます。これを「定期同額給与」と言います。※厳密には少し定義が違うのですが、こうやって覚えておけば間違いはないでしょう。

 

定期同額給与から少しでも外れれば、会社の経費として税務署に申告するはずだった役員報酬が経費として認められなくなり、法人税の支払い額が大幅に増えてしまう可能性があります。

 

2−3−2.定期同額給与で良くある失敗例

例えば、会社を7月15日に設立した場合で、「7月は半分過ぎたから、この月は役員報酬は半分の20万円にしよう。」として、次月から定額で40万円にしたとすると、「定期同額ではない」と見なされ、その役員報酬の一部(40万円-20万円=20万円)が損金として認められなくなります。そうなると、前述したように法人税の支払額が変わる可能性があります。非常に厄介な制度ですが、決まりである以上仕方ががありません。「定期同額給与」はしっかりと守るようにしましょう。

 

2−4.役員報酬の注意点③:使用人兼務役員にすると納税の選択肢が増える

役員に対して支払う賞与は原則損金にはなりません。

 

しかし、「取締役部長」のように、使用人兼務役員にすると、その者に従業員として支払う賞与は損金にすることができます。従業員に対する支払いはほとんど全てが経費となるためです。

もちろん使用人兼務役員とするには、

 

  • その者が専務取締役や常務取締役ではなく、平の取締役であること
  • 使用人(部長や課長)としての職務を実際に遂行していること

などの条件があります。また、当たり前のことですが、使用人兼務役員に対して支払う賞与は、ほかの従業員と同じ日に支払いが行われ、その額が従業員として妥当な額である必要があります。

 

しかし、取締役が複数いて、その取締役に対する報酬の支払い方法にある程度の幅を持たせたい場合は、このように使用人兼務役員にすると良いでしょう。

 

2−5.役員報酬の注意点④:法人税や所得税だけでなく社会保険料額も絶対に把握しておこう

これは従業員に対しても同じなのですが、役員報酬などの給与が増えれば増えるほど、会社も個人も社会保険料の負担が大幅に増えてしまいます。

 

例えば、東京都で40歳以上の方の場合、月収20万円であれば月々の保険料は約2万3千円です。一方、月収120万円であれば、約14万円に跳ね上がってしまいます。(※これは会社と個人が支払わなければいけない額の合計です。)月の収入によって、これだけ社会保険料が変わるのですが、これは多く払ったからといって、極端に保険内容が手厚くなるものではありません。また、将来に年金として回収できる額が社会保険料納付額よりも遥かに少なくなる可能性の方が高いというのも現実です。

 

そのため、経営者にとっては社会保険料は低く抑えておいた方が良いとも言えます。従って、役員報酬を決める際は、「会社で払う法人税」「個人で払う所得税」「双方で払う社会保険料」のバランスを見て決めるのが最も理想的だと言えます。

 

 

3.役員報酬の変更方法

役員報酬は定期同額給与でなければ経費(損金)として認められないため、基本的には期首の3ヶ月以内をのぞいて、期中に役員報酬額を変更することはできません。例えば、もし期末に役員報酬を自由に変更できるようになっていれば、会社は、法人税の納税額を意図的に操作できるようになってしまうためです。

 

しかし、特定の場合は、期中でも役員報酬を変更することができます。それでは、まず、どういう場合に、役員報酬を減額、または増額することができるのかをご説明します。

 

3−1.役員報酬を減額する場合

会社の売上が見込みの通りにいかず、経営状況が苦しくなり、役員に対して定期同額で報酬を支払えなくなると、その期に役員に対して支払った報酬は全て経費にならなくなってしまい(=損金不算入)法人税額が増えてしまいます。そのままでは、会社の経営状況は悪化する一方なので、最悪の場合には倒産の可能性さえ出てきてしまいます。

 

そのため、以下の4つの場合には給役員報酬の減額が認められています。

 

  1. 業績や財務が悪化して、株主との関係上、役員としての経営責任を取るために役員報酬を減額せざるを得ない場合
  2. 取引銀行との借入金返済の予定協議において、役員報酬を減額せざるを得ない場合
  3. 業績や財務状況の悪化で、取引先などの利害関係者からの信用を維持する必要があり、役員報酬を減額して経営状況の改善を図るという計画が盛り込まれた場合
  4. 特定の役員の不祥事により会社秩序を維持するため、あるいは会社の社会的評価への悪影響をさけるため、一時的にやむを得ず行われたものであり、その処分内容が社会通念上相当のものである場合

 

役員報酬を変更する時は議事録を取っておいて、後で税務調査の時などに、上記4つの点に照らし合わせて、その客観的かつ具体的な理由を説明できるようにしておくことが重要です。もし、十分な説明ができなければ、後になって、役員報酬が経費(損金)として計上されないことになり、追加で納税をしなければいけなくなってしまいます。

 

3−2.役員報酬を増額する場合

会社を経営していて、当期の予想よりも売上が大きくなった場合、経営者は自分に対する報酬を増やしたくなることでしょう。しかし、いつでも報酬を増額できるとなると、簡単に会社の利益操作ができることになり、法人税額の支払いを意図的に下げることができてしまいます。そのため、期中に役員報酬の増額も認められる場合と認められない場合があります。

 

期中の役員報酬の増額が認められる場合とは、例えば、非常勤役員が常勤役員になったり、平の取締役が専務取締役になった場合など、一般的に見て仕事の責任が増えるので、その分、報酬が上がっても妥当とみなされる場合です。もちろん、このような理由があって、報酬を増額する場合も、

 

  • 定款の役員報酬総額の支給限度内であること
  • 臨時株主総会の決議があること(議事録が必要)
  • 報酬額が「不相当に高額」な額ではないこと

 

といった条件を満たしておく必要がありますので、覚えておきましょう。

 

 

3−3.役員報酬変更の議事録の書き方

役員報酬の変更は、以上の場合に該当する時に可能です。

 

またその際は、役員報酬変更の決議を行う必要があります。決議は、取締役会設置会社であれば取締役会で、そうでなければ株主総会で行い、後で役員報酬の変更理由を説明できるように議事録を取っておく必要があります。

 

また、繰り返しになりますが、税務調査の時などは、この役員報酬変更の議事録だけでなく、役員報酬を変更しなければいけなかった理由も示さなければいけません。後になって用意するのは大変ですので、変更が必要だった理由を示す資料などもしっかりと保存しておきましょう。これら全ての手順を終えてから、役員報酬額を実際に変更して支給することができるようになります。

 

※定款で役員報酬の額を決めている場合は、定款の変更も必要となります。

 

3−4.役員報酬の変更に関する注意点:さかのぼっての減額や増額はできない

期中に役員報酬を変更した場合、株主総会や取締役会でその決議があった日の次の支給からの変更となります。期首にさかのぼって適用することはできませんので注意しましょう。もし、期首にさかのぼって適用しようとすると、後になって税務調査の時などに経費としてみなされず(=損金不算入)、追加で法人税を支払わなければいけなくなります。

 

4.まとめ:起業して成功するためには役員報酬には細心の注意を払おう

いかがでしょうか?

 

特に、設立したばかりの会社にとっては、役員報酬をいくらにするかによって、「会社で支払う法人税」「個人で支払う所得税」「双方で支払う社会保険料」の額が驚くほど変わってきます。そのため、何も考えずに役員報酬を決めていれば、資金繰りは当然苦しくなっていきます。

 

会社にとってキャッシュ(お金)は王様です。従って、経営者が役員報酬のこうした事柄を知らなかったでは済まされません。つまり、「本来は数百万を節税して、そのお金ビジネスの成長のために使うことができたのに、、、」と思ってからでは遅いのです。そのためにも、役員報酬は細心の注意をもって決めましょう。

 

そのために大切なのは、期首にざっくりではなく、しっかりとした一年間の損益計画を立てるようにしましょう。そして、会社を成長させて、自分が成功し、従業員にも楽になってもらうためには、会社の財務状況をどのようにするべきかをしっかりとした指標を作り、その指標に沿った役員報酬を設定しましょう。

そうすれば、会社の資金繰りも楽になるので、何も知らない時と比べると、遥かに起業して成功する可能性が大きくなります

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